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古いFire HD 10使ってませんか?電子書籍・動画・Webブラウジングで新しく買い替える価値があるかを検証する
2025年5月30日 06:26
Amazonの「Fire」と言えば、2012年にKindleストアが日本に上陸して以来、モデルチェンジを繰り返しながら現在まで続いている、同社のメディアタブレットだ。当時は「Kindle Fire」という名称だったのがその後「Fire」へと改められ、現在は8型モデルと10型モデルを中心に、およそ2年に1回のペースで新製品がリリースされている。
このFire、コストパフォーマンスの高さがなによりの売りだが、その具体的な性能については、スペック表を見てもはっきり分からないのが難点だ。新モデルが登場しても、従来モデルからどの程度進化したか分からず、いざセールでお得な価格で販売されていても、買い替えるべきか判断できず困ることもしばしばだ。
今回は、このFireの10型モデル「Fire HD 10」に絞り、初代にあたる2015年発売のモデルから、現行モデルの第13世代にいたるまで、節目となった4つのモデルについて、ベンチマークを始めとするパフォーマンスの違いを比較してみた。製品の買い替えにあたって参考になれば幸いだ。
まずは現行の第13世代を紹介
今回の比較にあたって基準となる現行モデルは、2023年に発売された「Fire HD 10 第13世代モデル」だ。解像度は1,920×1,200ドットと、10型クラスのタブレットとしては標準的。メモリは3GBで、ストレージ容量は32GB/64GBの2種類。さらに最大1TBまでのメモリカードをサポートしている。重量は439gと、10型クラスの中では比較的軽量で、本製品の売りになる部分だ。
実売価格は1万9,980円からとリーズナブルだが、指紋認証や顔認証といった生体認証に対応しないほか、USB Type-Cポートは急速充電に非対応であるなど、2023年に初登場した上位モデル「Fire Max 11」に比べると欠けている機能も多い。いまどきのタブレットに最低限必要なスペックを維持しつつ、価格の安さを優先したモデルという認識が正しい。OSは最新のFireOS 8に対応している。
ちなみに従来モデルにない特徴として、背面カメラが突起のある仕様になっている。Fireの背面カメラは画素数こそ低いものの、ひっかかりのないフラットな設計が特徴だったが、これが覆された格好だ(前述のFire Max 11を除く)。これで画素数が向上していれば分かるのだが、1つ前の第11世代と同じ5MPで、少々首をひねる仕様だ。
また本製品に限らずFireシリーズ共通の特徴だが、Google Playストアには対応しておらず、アプリについては独自のAmazonアプリストアからのみインストールできる。アプリのラインナップは決して多くないことに加えて、古いまま更新が行なわれていなかったり、インストールできても起動しないアプリも中には存在している。
そのため、Kindleやプライムビデオなど、Amazonのコンテンツ専用で使うのであれば問題ないが、そのほか幅広い用途を考えているのであれば、一般的なAndroidタブレットとの比較においてはウィークポイントとなりうる。Fireを選ぶにあたり、前提として知っておきたいところだ。
第5世代(2015年)は真っ先に買い替えるべき
では前述の現行モデルを、過去のモデルと比較していこう。最初に比較するのは、「Fire HD 10」としては初代にあたる、2015年発売の「第5世代モデル」だ(Fireは「第◯世代」の数字に発売年の末尾が入るルールなので、第4世代以前は存在せず、この第5世代が初代となる)。
それまで最大だった8.9型よりもひとまわり大きなモデルとして登場したこの製品、画面サイズは現行モデルと同じく10.1型だが、解像度は1,280×800ドットと低い上、メモリ容量はわずか1GBと、当時のFire OS 5でギリギリ動くレベルに過ぎない。発売時点でもっさり感を指摘する声が多数を占めていたことからして、お察しと言ったところである。
さらにストレージの容量も16GB/32GBと、現行モデル(32GB/64GB)より控えめ。メモリカードによる容量追加にも対応するが、最大容量は128GBに過ぎず、実用性には乏しい。バッテリ持続時間も最大8時間と、現行モデルの13時間と比べると大きな開きがある。
実際の動作速度に関しても、ベンチマークアプリでは現行モデルに数倍の差を付けられているほか、インストールできないアプリや、インストールできても起動できないアプリも多い。ちなみにベースとなっているAndroidのバージョンは5.1.1で、アップデートはすでに終了しているために今後の改善も望めない。
一方で電子書籍のようにパワーを必要としない用途でも、表示性能そのものが低いという問題に行き当たる。歴代最軽量(432g)であるなど見るべきポイントもなくはないのだが、ここまでくると評価の対象にはしづらい。真っ先に買い替えるべきモデルと言って差し支えないだろう。
第9世代(2019年)は条件次第で要買い替え
次に比較するのは、2019年に発売された「第9世代モデル」だ。「Fire HD 10」としては初となるUSB Type-C搭載モデルだが、インカメラの配置はそれまでと同様、縦向き利用を前提としたデザインで、ボディのフォルム自体は1つ前の第7世代と大きく変わっていない。
ストレージは32GB/64GBと、現行モデルと同水準だが、メモリカードは現行モデルが1TBまで対応するのに対して512GBまでに限定されているほか、メモリは2GBと、いまとなってはやや心もとない。リアカメラも2MP(現行モデルは5MP)に留まっている。
一方で画面は現行モデルと同じ1,920×1,200ドットなので、買い替えても表示の品質は変わらず、Wi-Fiも現行モデルと同じ11ac対応と来ているので、買い替えメリットはそれほど大きくない。
ただしその一方で、ベースがAndroid 9で、OSもFireOS 7止まり(現行モデルはFireOS 8)というのは少々引っかかる。パフォーマンスに関しても、ベンチマークで見る限り現行モデルの約半分にすぎず、前述の第5世代のようなフリーズと見紛うようなもたつきこそ見られないが、今後も長く使えるかというと疑問符がつく。
また電子書籍ユースに限って言えば、後述の第11世代以降と異なり、dマガジンアプリに対応しないのも、製品の価値を下げてしまっている。6年前のモデルとしてはかなり健闘しているが、よい条件があれば早期に買い替えたほうがベターだろう。
第11世代Plus(2021年)は現状では買い替えの必要性は低い
続いて比較するのは、2021年に発売された「第11世代モデル」だ。今回は標準モデルではなく、派生エディション「Fire HD 10 Plus」を取り上げる。
末尾に「Plus」とついたこのエディションは、10型モデルと8型モデルに一時期存在したモデルで、通常モデルよりもメモリが増量されているほか、ワイヤレス充電に対応するなどのメリットも備えている。ただし解像度は1,920×1,200ドットと通常モデルと変わらず、表示性能は標準モデルと同等だ。
前述の第9世代モデルと異なるのは、ボディが横向きを前提としたデザインに刷新されていることだ。TV電話などでインカメラが使われることが多くなった2020年前後からは、Fireに限らずさまざまなタブレットでインカメラの位置を縦方向から横方向へと変更する流れがあり、本製品もそのトレンドを取り入れたモデルとなっている。
ベンチマークのスコアは、現行モデルの6~7割程度。標準モデルよりもメモリが多いにも関わらず、これだけ負けているのは意外な印象だ。ベースとなっているAndroidが現行モデルのAndroid 11ではなくAndroid 9であり、OSがFireOS 7止まり(現行モデルはFireOS 8)なのが理由の1つと考えられる。
とはいえ実機を使っている限りでは、ベンチマークスコアほどのパフォーマンスの差は感じられず、またストレージ容量は32GB/64GB、対応メモリカードは1TBまでという仕様は現行モデルと同一。重量はやや重く厚みもあるが、現行モデルと違って背面カメラが突出していない利点もある。買い替えの必要性は、現時点では低いと言っていいだろう。
スクロールと読み込み速度をそれぞれ比較
以上、各製品を現行モデルと比較したが、続いてはスクロールのなめらかさと読み込みのスピードについて、動画で違いを見ていこう。Webブラウジングを行なう場合、これらのスムーズさは使い勝手に直結する。
今回はPC Watchのトップページをスクロールしていったん戻ったのち、連載ページへとジャンプし、読み込みが完了するまでどのくらいかかるかを計測している。最初の第13世代を基準に、それ以外のモデルがどのくらいの差があるのかを見てほしい。以下、世代が新しいモデルから、第13世代、第11世代、第9世代、第5世代の順に見ていく。
これらを見る限り、第13世代、第11世代、第9世代はスクロールのなめらかさに差は感じられない。最後の第5世代のみ、スクロール中にサムネイル画像が表示されるまでがワンテンポ遅く、画像表示がスクロールに追いつくのがやっとという様子がちらほら見て取れる。
また、リンクをクリックして新たなページの表示が完了するまでの時間は、第13世代、第11世代、第9世代はいずれも10秒前後なのに対して、第5世代だけは24秒47と倍以上かかっている。Wi-Fiはいずれも11acベースであることから通信速度の差ではなく、処理速度の差と見てよいだろう。第5世代に関しては、買い替えの恩恵は大きいと考えてよさそうだ。
古いモデルでも実用レベルで使える動画鑑賞
最後に動画鑑賞についても比較してみたので違いをまとめておこう。
Fireタブレットはいずれも著作権保護技術Widevine L1をサポートしており、動画配信サービスの再生も高画質で行なえる。今回はプライムビデオで検証したが、Fire HD 10としては初代にあたる第5世代であっても、いったん再生を始めてしまえば、ブロックノイズなど低スペック端末にありがちな症状も発生せず、いたって快適に再生できる。
また本体を横向きにすれば左右ステレオで再生できるので、音声についてもこのサイズのタブレットとしては一定の水準を保っている。第5世代から現行モデルの第13世代まで聴き比べてみたが、十分な品質で、8型モデルと比べても音の拡がりを感じる。いずれのモデルもイヤフォンジャックを搭載しているので、有線イヤフォンが使えることを、プラスに捉える人も多いのではないだろうか。
こうしたことから、電子書籍やWebブラウジングで、パフォーマンス的な問題から引退を考えているモデルであっても、動画再生機へと転用させれば、延命させることは可能だ。用途があるうちは買い替えず、骨の髄までしゃぶり尽くしたいという人におすすめしたい。
ただし唯一、第5世代についてはあまりおすすめしない。再生が始まってしまうと快適なのだが、動作が重すぎるせいで再生ボタンを押す画面にたどり着くだけで一苦労なほか、画面の解像度が歴代モデルの中で唯一低いこと、またNetflixはAmazonアプリストアに登録されているアプリが古すぎて、新しい「広告つきプラン」の再生に対応できないなど、問題が山積みだからだ。
話をややこしくする「Showモード」廃止問題
以上をまとめると、第5世代は実用面で難があり、買い替えは急務。第9世代と第11世代は現行モデルと比べて挙動にそれほど差はないものの、最新のFireOS 8に対応しないこともあり、タイミングを見計らって新しいモデルに入れ替えていくのが無難、といった結論になる。どの用途であれ、結論はおおむね同じだ。
ただし話をややこしくする問題が1つある。それはFireタブレットの売りだったAlexaの「Showモード」が、2024年11月の時点で最新のFireOS 8でのみ廃止され、利用できなくなったことだ。
該当製品の画面上でのアナウンスはあったとはいえ、これまでセールスポイントだった機能を製品ページでの告知なくひっそり削除するのは個人的にはどうかと思うが、さらに話を複雑にしているのは、廃止されたのは現時点で最新のFireOS 8だけで、従来のFireOS 7に対応したモデルは、いまだにShowモードを利用できることだ。
「従来のFireOS 7に対応したモデル」というのは、今回取り上げた機種では第9世代と第11世代が該当する(これ以外では第7世代もこれに当たる)。これらのモデルでは、約半年が経過した現在も、Showモードが依然利用できている。これに対して現行の第13世代モデルは、Showモードは機能自体が存在しないことになっている。
つまり第9世代と第11世代については、Showモードを使っている限りは買い替えるべきではないという、本稿で見てきたのとは真逆の結論になってしまう。
Amazonスタッフによるユーザーフォーラムへの投稿によると「Showモードの廃止に伴いデバイスダッシュボードへのアクセスはAlexaアプリからのみ」可能になるとのことで、復活の目はなさそうだが、Fireタブレットの買い替えにあたってこうした点にまで気を配らなくてはいけないのは、ユーザーとしてもつらいところ。ともあれ、既存モデルを所有している人は、思わぬ落とし穴ということで気をつけるべきだろう。